「この顔は何の顔?」新型コロナウイルス退散の願いを込めて

人面墨書土器とダルマ
 コロナ禍、世間では疫病を鎮める妖怪アマビエがにわかに注目されていますが、遥か昔より疫病は繰り返し人類を脅かしてきました。
 さて、この顔は何の顔だと思いますか?妖怪ではありません。
 太い眉、大きな目、荒々しいあご髭。墨で土器に描かれたこの顔は、「禍(わざわい)を引き起こす疫神(やくしん)」の顔です。
 この土器は人面墨書土器(じんめんぼくしょどき)といい、三島市安久にある箱根田遺跡で発見されました。今から千二百年前の平安時代の遺跡です。
 日本各地にある遺跡のうち、人面墨書土器が発見される遺跡は限られています。中央では都のあった平城京や平安京、地方では国府や郡衙(ぐんが)など国の施設に関係する遺跡で、出土場所も溝や河川跡がほとんどです。
 箱根田遺跡からも溝跡と古代伊豆国に関連する倉庫跡が見つかっています。この遺跡は、駿河湾から狩野川、さらに大場川を遡って三嶋大社東側にあったと推定される伊豆国府に向かう水運ルートの入口に位置し、川の港「津」としての機能がありました。
 医学的知識の乏しい当時の人々は、疫病などの禍は、真っ暗闇の深夜に外部から疫神が集落の中に入り込み、悪さをして暴れまわることが原因と考えました。
 そのため、国府や集落の入口付近の水辺で人面墨書土器に酒やご馳走を入れて疫神をもてなし、住んでいる地域に疫神が入ってこないよう、疫神退散を願う祭祀(さいし)を行っていたようです。
 また当時の人々は、自分に禍ごとが起こるのは、日常生活の中でいろいろな罪や穢れ(けがれ)が溜まっていくことが原因のひとつだと考えました。  そこで身代わりとなる人形(ひとがた)を作り、この人形で体を撫で、ふぅーと息を吹き込むことで自分に溜まっている罪や穢れを人形に移し、自身は再び穢れのない状態に戻す「祓(はらえ)」の儀式を行いました。そして溝や水辺で穢れを移した人形を「水に流す祭祀」をしました。    この祓の儀式は、現在も半年の節目である六月三十日の夏越の祓(なごしのはらえ)や十二月三十一日の年越しの大祓(としこしのおおはらえ)として三嶋大社などの神社で行われています。
 医学の進んだ現代においても、冬季になると流行する季節性インフルエンザ、2002年の新型肺炎SARS、そして今年の新型コロナウイルスの流行は私たちにとって大きな脅威となっています。ましてや平安時代では、その恐怖はなおさらのことだったでしょう。
 箱根田遺跡の人面墨書土器からは疫病退散の切実な思いが伝わってきます。楽寿園の中にある郷土資料館三階に展示していますので、コロナ禍が落ちついた頃に、ぜひ足を運び、ご覧になって下さい。
(令和2年7月1日号記事)
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