箱根西坂の史跡9  富士見平(ふじみだいら)の芭蕉句碑(ばしょうくひ)  (平成19年10月1日号)

 「霧しぐれ 富士を見ぬ日ぞ 面白き 芭蕉」

これは富士見平にある石碑に刻まれた松尾芭蕉の句です。詠まれたのは貞享(じょうきょう)元年(1684)旧暦の8月、『野ざらし紀行〈甲子吟行(かっしぎんこう)〉』における箱根越えの時です。

 『おくの細道』などに代表されるように、芭蕉は西行(さいぎょう)や宗祇(そうぎ)と並ぶ旅の詩人として有名ですが、この『野ざらし紀行』は芭蕉が41歳にして最初の文学の旅でした。

 句の詞書(ことばがき)には「関越ゆる日は雨降りて山みな雲にかくれたり」とあり、この日の箱根は雨で視界が悪かったようです。季語は「霧」で秋。旧暦の8月は現在の9月後半にあたり、ちょうど秋雨前線が活発な時期といえるでしょう。

 霧時雨(きりしぐれ)で見えない富士を心の中に見立て、「面白き」と興ずるところに芭蕉俳諧の真髄(しんずい) が窺(うかが)えます。

富士見平の芭蕉句碑
▲富士見平の芭蕉句碑

【広報みしま 平成19年10月1日号掲載記事】