狐とおばあさん

狐とおばあさん
むかし、夏梅木(谷田 夏梅木)という集落から少し離れたところに「イリヤ」と 呼ばれる一軒の農家がありました。
この家のおばあさんはとても働き者で、毎晩夕飯をすますと、縄(なわ)をない 夜なべをしていました。
狐とおばあさん
ある日のこと、裏山へ出かけたおばあさんは、 けがをしてうずくまっている一匹の キツネをみつけました。
「かわいそうに、痛かろう。それ、手当てをしてやるよ」
キツネは人間の姿を見ても逃げ出さないところをみると、よほどけがが痛かったのでしょう。
おばあさんはやさしく手当てしてやり、油揚げと水をかたわらにおきました。
狐とおばあさん
それから何日かたったある日のことです。 おばあさんがいつものように縄ないの仕事をしていると、縁の下でなった縄を引く者がいます。
驚いたおばあさんは、あかりをかざし縄の先を確かめると、暗やみに光る 二つの目玉を見つけました。
「これは、キツネかタヌキのしわざじゃろ。悪さはしないようじゃで、追い払うこともなかろ」
おばあさんはこう言いながら、縄ないの仕事を続けていると、また、縄を引っ張ります。
狐とおばあさん
縄ないの仕事は根気がいりますが、仕上げた縄がからみつかないように、まとめるのも一苦労。
こうして縄を引っ張ってもらうと、おばあさんは大変助かり、仕事もはかどりました。
ところが、あくる晩も、次の晩も、毎晩のように来て縄を引っ張るので、おばあさんはある晩、縄をなって引っ張る時に、「もういいよ」と声をかけました。
するとキツネは、声がかかるのを待って縄を引くようになりました。
おかげでおばあさんはたいそう仕事がはかどり、楽ができたそうです。

【注】
「縄をなう」…わらなどをより合わせて、なわをつくる。
「夜なべ」…夜に仕事をすること。もともと、夜、なべで夜食をとりながら仕事をしたという意味だった。