(第57号) 宿場生活の知恵 ハコカイダン (平成4年3月1日号)

 ハコカイダンとは、箱と階段の二つの機能を合わせ持った大型家具のことで、箱段とか箱梯子という名株が一般的です。三島では、箱階段と呼ばれていたようです。
 宿場町のような都市型家屋で、狭い空間をできるだけ有効に活用するために考案された家具です。階段の下部を箱型にして、そこに何段かの引き出しを作ることで、階段としての強度を増加きせ、かつ便利な収納空間が確保できるようになっています。
 江戸時代の三島は、東海道屈指の大きな宿場町でした。東の新町確から西の境川橋まで、東海道沿いには間口の狭い家々が軒を並べていました。なかでも町の中心部となる三嶋大社から広小路までの間には、街道を往来する旅人を泊める旅籠がひしめいていました。
 旅籠の建築は、本陣のように規模の大きい施設は別として、たいていは似かよった、細長く狭い構造のいわゆる「鰻の寝床」のような造りでした。つまり、通りから大戸口を入ればニワ(間)。ニワに面した最初の部屋がミセ(店)。ニワは、次の中の間から、そのまた次の奥の間に沿って、きらに裏の坪庭まで続く、いわばトオリニワ(通り抜けのできる土間)となっていました。また、こうした旅籠のなかにも、少しでも多くの宿泊客に応じることのできるように、二階建ての建築もかなりの割合であったようです。
 しかし、旅籠のような狭い間口の家では、二階へ上がるためだけの階段のみに、多くの占有空間を与える余裕があいりません。できるなら階段は可動的に作れないものか、また、その下には収納空間ができないものか、などという生活の工夫が必要でした。ハコカイタンの誕生は、このような宿場生活の知恵からきたものと思われます。
(広報みしま 平成4年3月1日号掲載記事)