歴史の小箱
(第374号)なんのため?戦前に作られた衣服のミニチュア(令和元年7月1日号)
郷土資料館では三島の歴史や文化、生活等に関する資料を収集しており、収蔵品の大半は市民のみなさまから寄贈を受けた資料です。古文書をはじめ、古い農機具や大工道具など仕事に関する道具、日用品、美術工芸品などさまざまな資料がありますが、その中には「これは何に使うのだろう?」と一見不思議なものもあります。
そのひとつが、「小さすぎる衣服」です。ワンピースやウールのコート、セーラー服、和服など、どれもまるで新生児用のように小さく、けれどもデザインはとうてい赤ちゃんが着るようなものではありません。凝ったデザインや装飾が施され、サイズさえ合えば大人が着ても問題ない出来栄えです。
▲ギザギザ模様の服、着丈は17cmという小ささ

▲ワンピースなどのミニチュア
実はこれ、誰用でもありません。「裁縫雛形」と呼ばれるもので、裁縫の練習のために作られたものです。
明治13年(1880)の改正教育令で女子学生には裁縫と「家事経済」(家計管理)が課されたように、戦前の女子教育ではいわゆる良妻賢母教育に主眼が置かれていました。女学校では裁縫の授業に多くの時間が割かれたほか、各地に洋裁・和裁を専門的に教育する裁縫女学校が設立されました。
女子学生たちが洋裁・和裁の技術を身に着けるためには、在学中の限られた時間の中でたくさんの衣服を縫い上げる必要があります。
そこで考案されたのが「裁縫雛形」です。デザインや作り方、使用する素材はそのままに、サイズだけを縮小して制作することで、制作時間が大幅に短縮され布地も節約できます。この「裁縫雛形」は、現在の東京家政大学の校祖・渡邉辰五郎によって明治時代半ばに考案され、その後全国に広がりました。
少女たちが丁寧に縫い上げた裁縫雛形は、女子教育の歴史や洋装の普及など、日本の近代史を知るうえでも貴重な歴史資料です。
【広報みしま 令和元年7月1日号掲載記事】
歴史の小箱(2019年度)
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