(第35号) 弁当箱あれこれ (平成2年5月1日号)

 行楽シーズンたけなわの候。野に山に浜辺に、たくさんの人がうきうき弁当持参で出掛けます。楽しいピクニックの主役は、手作りの弁当。さわやかな青空の下で食べる弁当のおいしさはたとえようがありません。
 弁当の語源は、一人前ずつ飯を盛って配るのに用いた曲げ物の食器である面桶(めんとう、めんつう)にあり、音はその転訛であるとされます。
 静岡(井川)の特産でもある桧の曲げ物の弁当箱を「メンパ」と言います。昔、野良に耕作に出掛ける時は、メンパにご飯を詰めて持って行ったものです。このメンパは面桶に通ずるものでしょうか。
 三島周辺の野良弁当といえば、竹を編んで作った「ペントウイザル」があります。イザルに麦飯をぎゆつと詰め、コウコウ(たくあんのこと)と梅干しを入れ、それを腰に付けて箱根の入会地まで草刈りに行ったという昔話をしばしば開きます。
 メンバもイザルも材料は植物ですから、空気の流通があり、ご飯が悪くならず、弁当入れには最適でした。
 遊びに行くための弁当もあります。「提重箱」は、行楽には欠かせない弁当箱でした。文字どおり、いくつも重ねた弁当箱を一つの箱にまとめて、手に提げて歩けるようになっています。材料にも上等の木を使い、表の人目に触れる部分は木目の美しさを出し、弁当箱の中は朱漆を塗るなど清潔に仕上げてあります。提重箱は、花見や遊山、芝居見物などに出掛ける時に使われました。少し気取った弁当箱稽と言えるでしょう。
 大名や大金持ちの商人が使った提重箱になると、実用性よりも意匠や工夫の方に重点が置かれ、たくさんの容器や付属品を小型に作り上げ、コンパクトに一つ箱に収めた芸術品的な物まであります。
 弁当箱は人の生活における食文化の華と言えるでしょう。
(広報みしま 平成2年5月1日号掲載記事)