(第372号)三四呂人形に見る季節 春~夏(令和元年5月1日号)

郷土資料館では、「バック・トゥ・ザ・ミシママチ!」と題して、館蔵資料を通じて江戸時代から近代にかけての三島の歴史や文化を紹介する展示を行っています。展示品の中から、今回は季節にちなんだ、かわいい人形芸術の紹介です。

「三四呂人形(みよろにんぎょう)」とは、昭和初期に活躍し、将来を嘱望(しょくぼう)されながらも夭折(ようせつ)した三島出身の人形作家・野口三四郎(のぐち・さんしろう)が残した人形のことです。三四郎が人形制作を行っていた昭和初期は、人形を芸術の域に高めようという人形芸術運動が勃興(ぼっこう)した時期でした。当時もっとも注目を集める美術展の一つであった帝国芸術院展(帝展)に人形作家が初めて入賞した昭和十一年、人形芸術院が設立され、その第一回展覧会では三四郎の作品が最高賞を受賞しました。しかしこの受賞の翌年、三四郎は結核で亡くなります。人形作家としての活躍期間は短く、残された作品は多くありませんが、彼の作品はゆかりの人々に大切に受け継がれ、今なお多くの人々から愛されています。

三四郎の作品には子どもや動物をモチーフにしたものが多く、まるみを帯びたやわらかな作風は、対象への深い愛情やぬくもりを感じさせます。今回は、彼の作品の中から陽春の今にぴったりな数点をご紹介します。

「パラソル」は、雨上がりでしょうか、空を見上げる少女の晴れやかな顔と追いかけてくる子犬がなんとも愛らしい作品です。
パラソル

▲「パラソル」



「春日庭」は、庭でかごの中の小鳥と一緒にブランコ遊びをする少女の様子です。台裏に工夫をこらすことで、ブランコは実際にスイングするようになっており、春のあたたかい光や少女のはずむ心までもが伝わってくるようです。
春日庭

▲「春日庭」



「五月の賦(ごがつのふ)」は、こいのぼりがたなびく5月の空を表現した作品です。男の子の成長を願う 父の心を反映したものでしょうか、小さく配した家並や富士山と大きく作られたこいのぼりの対比が奥行を生み、雄大さを感じさせる作品です。一男一女の父であった三四郎は、ひな人形も残しています。
五月の賦

▲「五月の賦」



【広報みしま 令和元年5月1日号掲載記事】