(第156号) ~広重の描いた大社前~ 隷書【れいしょ】東海道「三島」 (平成13年5月1日号)

隷書【れいしょ】東海道「三島」
 歌川広重(初代)は天保年間(1830~44)に出版した東海道五十次シリーズの浮世絵で一躍有名になりました。三島宿部分では、三島明神(大社)前を霧の中早立ちする旅人を描いた「朝霧」の図で有名です。

 広重はこの後十種類以上の東海道シリーズを出しそれぞれ高い評価を得ています。

 写真はその一つ「隷書【れいしょ】東海道」と呼ばれるシリーズで三島明神【みょうじん】(大社)の鳥居越しに立ち並ぶ旅籠【はたご】を描いたもので、東海道を斜めに切り取る描法が新鮮です。

 画中の旅人達は尻ぱしょりに振り分け荷物の疲れた様子で宿に着き、たらいの水で足を洗いさっぱりしてから上がります。二階では、早く着いた人々が手すりに身を乗り出して、宿や三島明神境内を見渡しています。ここには江戸時代を通じて変わる事のなかった三島宿の夕景が描かれているのです。

 ところで、鳥居周辺の木々は 不思議に思いませんか。現在大社の玉垣の内側には樹齢百年以上の大木が何本も植えられていますが、街道に面したものは広葉樹が多く、この図の様な針葉樹は見当たりません。

 この後火災等で焼けてしまったか、あるいは広重が描き加えたか、謎が残ります。また、街道沿いの旅籠と旅籠の間にも一本の大木が描かれています。構図上、これらの木々が画面を引き締め、潤いと不思議な静けさを与えています。

 また画面をよく見ると、東海道の道の部分には版木の木目が浮き出ています。一説には、水の湧き出るイメージを表わしているとも言われます。

 平成13年は東海道制定四〇〇周年にあたり、これを記念して郷土資料館では広重の「朝霧」「隷書東海道三島」の他、豊国「御上洛東海道」北斎【ほくさい】「春興五十三駄」の三島及び東海道五十三次双六【すごろく】を購入しました。これらは、個人が所蔵している三島の浮世絵十二点と共に企画展「三島宿」にて展示しました。

(平成13年5月27日まで)
(広報みしま 平成13年5月1日号掲載記事)