(第88号) ~若者の力競べ~ 力石【ちからいし】 (平成6年10月1日号)

力石【ちからいし】 
神社の境内に、大人がやっと抱えることができるくらいの大石が意味ありげに置いてあるのを見かけることがありますが、気付かれた経験をお持ちでしょうか。

   三島では梅名の右内神社に地区の郷土史研究会の人達による解説付きで見ることが出来ます。これは「力石」です。郷土館入り口にも2個、夏梅木からお借りした「力石」が展示してあります。

   かつて、各地の農村・漁村には、現代でいう青年団がきっちりと組織され、「若者組」という名称の元に、さまざまなムラの行事やお祭りを運営し、共同作業を行い、お互いの人生上の研鑚【けんさん】を積んでいました。若い衆の組織は、いわば社会教育の場であり、そこに属する一人ひとりがムラの立派な一員として認められるための道場のようなところでもありました。

   「力石」は、そのような日々を過ごしているムラの若い衆たちの娯楽の「力競べ」に使われたものです。写真の2個の力石は、小さいものが24貫、大きいほうが36貫といわれていますから、約90キロから135キロということになります。米一俵が60キロで、昔の若者はこれを当たり前のように担いだと聞きます。だから、それくらいの重さは平気だったのでしょう。

   また、あるムラでは、「力石」を、新参の婿の家の前に置いて婿の力だめしをした、などということも有ったそうです。

   日本では昔から石に対する厚い信仰が有りました。石は神の「依代【よりしろ】」であり、それを持ち上げて力技を競い一年の豊作を占う行事が全国的に行われてきましたが、力競べはそうした行事が次第に若者たちによって娯楽化したものと思われます。現在見られる「力石」の多くが、神社の境内に残っているということは、そうした石の信仰を物語るものといえるでしょう。

   今では、若者組の組織も解体し、「力石」を持ち上げて遊ぶ風景も見られなくなってしまいました。
 (広報みしま 平成6年10月1日号掲載記事)