(第3号) 三島踊りの図(広重)(昭和62年9月1日号)

 浮世絵「東海道五十三次」で知られた安藤広重(初代)は、有名な保永堂版のほかにいくとおりかの″東海道もの″を描いています。いわゆる「行書東海道」「隷書東海道」 と言われているものがその代表作です。
 三島宿の場合、保永堂版は「朝露の中の出立風景」、行書は「新町橋の見える宿場入口風景」、隷書は「明神鳥居前の旅籠風景俯瞰図」です。いずれも鋭い覿察力と、三島の特徴をよくとらえた作品といえましょう。 ここに紹介する肉筆浮世絵「三島踊りの図」(絹本着色)は、三嶋大社の「田祭り」の舞いが主題です。
 田祭りは、「おたうち」の呼び名で親しまれているもので、正月七日(昔は旧暦六日)に近郷近在のたくさんの人々を集めて開かれます。年の始めの豊作を予祝する大切な行事で、古式にならい、稲作の一年の所作を謡と舞いによって表現します。
 広重の描いた「三島踊り」は、この中のハイライトシーンで、からかさを広げめしびつを頭上にささげ持つ場面です。
 広重は実際に、この田祭りを見たのでしょうか。それはともかく、この絵は極めて三島的な題材と言えます。 彼のもう一つの東海道もの「東海道五十三対」にも田祭りを描いた三島があります。
(広報みしま 昭和62年9月1日号掲載記事)