(第48号) 大きな収納家具 車長持 (平成3年6月1日号)

 車付きの大型の長持。大切な物の収納家具として、江戸時代に、さかんに使われました。車は、非常の際に、持ち出すのに便利なためだとされます。
 しかし、それにしても、余りにも大き過ぎるように思います。ちなみに、郷土館に展示している車長持は、縦七九・五センチ、横一七二センチ、高き一〇八・五センチというサイズ。
 その上非常に厚い板で、しかも頑丈この上ない作りになっています。車長持という道具の歴史を振り返ってみました。
 明暦三年(一六五七)、江戸に大火事があり、何万もの江戸の民衆が車長持を引いて(あるいは押して)町中にあふれたため、交通渋滞を起こして人々の避雉に支障をきたし、大災害となりました。この教訓から、江戸や大阪では、車長持の製造販売が禁止となったのでした。
 江戸や大阪などの大都市からは車長持が消えましたが、便利な収納家具としての役割までが無くなってしまったわけではなかったようです。地方では、その後も、衣類・家財・ 商品等の貴重品収納用に使われていました。
 ところで、このように大きな家具を、家の中でどこに置いたものでしょうか。それは土間であろうと推察されます。第一、設置しやすいこと、そして、非常の際に持ち出しやすいこと。こうした点からです。しかし、土間は盗難や強盗の危険の多い所です。籍が頑丈な点、錠前付きであるのは、このためだと思われます。やはり、これは、都市型生活向きに考案された家具といえるでしょう。
 最後に、車付きの不思議についてですが、もちろん、移動に便利なようにということもあったでしょうが、それ以上に、土間や床から浮かせて湿気を防止する目的に付けられたものと考えられるでしょう。
(広報みしま 平成3年6月1日号掲載記事)