(第203号) 三四呂人形の話(2) 三四呂人形に見る「春」 (平成17年4月1日号)

 今回は四月ということで、三四呂人形にまつわる「春」を題材にした作品の紹介です。
まずは、その名のとおり「春」という作品です。桜の木の下で、手で目隠しをして座っているお坊さんという設定ですが、このお坊さんこそ、江戸時代の有名な禅僧、良寛をモチーフにしているといわれています。良寛さんは越後・出雲崎の出身で、乞食僧として全国を行脚し、優れた詩歌を数多く残しております。また子供と遊ぶのが大好きだったようで、遊びに来る子供達と一日中手まりやかくれんぼをしていたといわれています。「霞立つ長き春日を子供らと手まりつきつつ今日もくらしつ」などの残された歌には、子供好きの一面が如実に現れています。
 -ある日かくれんぼをしていたら夕方になったので子供たちは黙って帰ってしまったが、鬼役だった良寛さんは朝まで探していた-
 そんな逸話も残されており、三四郎はこれらの話をもとに、「春」を作ったのではないかと思われます。子供の姿こそ登場しませんが、童話的な世界を三四郎ならではの手法で上手に表現しています。
 「春日庭」という作品は、庭先のブランコで遊んでいる少女がモチーフになっています。ブランコに揺れながら木に吊り下げられた鳥かごを微笑ましく見つめる少女、そんなゆったりした春の情景が描かれています。この作品では三四郎の描写力もさることながら、その構造にも工夫がなされています。それは台座裏面に仕掛けがあるのですが、三四郎は木の枝の心棒(針金)を底面であえて固定せず、台座裏面に突き出ている心棒の片側に木片を、他方に竹片をあてがい、竹片の湾曲する力で心棒をはさ挟み込むようにして固定しているのです。なぜ、このような方法をとったのか…恐らく三四郎はわず僅かな振動によって女の子を乗せたブランコや鳥かごが揺れることで、風の揺らぎや穏やかな春の様子を再現したかったのだろうと思われます。
 この他、「お花見」と題する人形や、花見の人たちを描いたスケッチなど、三四郎は様々な形で春を表現しています。
(広報みしま 平成17年4月1日号掲載記事)