「北沢亜鉛工場跡地土壌汚染の修復工事に係る協定書(案)」の不開示決定に対する異議申立てについて[諮問第4号]

平成14年7月18日 三情審第4号

審査会の結論

  本件異議申立てにかかる公文書である「北沢亜鉛工場跡地土壌汚染の修復工事に係る協定書(案)」を不開示とした三島市長の決定は、妥当である。

異議申立ておよび審査の経緯

(1)  本件の異議申立人○○○○さん(以下「申立人」という。)は、平成12年12月27日、三島市情報公開条例(以下「条例」という。)5条に基づき、実施機関である三島市長(以下「実施機関」ともいう。)に対して、「三島市が□□□□(株)に提示している北沢旧亜鉛精練工場跡地修復工事に関する防災協定書の案」の開示を請求した。実施機関は、開示請求のあった文書には、「株式会社□□□□に関する情報が記録されていることから、株式会社□□□□の意見を聴く必要があり、そのための期間を必要とするため」、条例13条2項の規定により、請求にかかる決定期限を平成13年2月10日まで、30日延長することとし、平成13年1月9日、その旨を申立人に通知した。その決定期間延長通知書(三ま環第88号)の文書には、発信日として「平成12年1月9日」の日付が記載されていた。
 その後、実施機関は、本件請求にかかる公文書である「北沢亜鉛工場跡地土壌汚染の修復工事に係る協定書(案)」(以下「本件公文書」という。)につき、その全部を不開示とする決定(以下「本件処分」という。)を、平成13年2月7日付けで行なった。
 これに対し申立人は、同年3月26日、本件処分の取消しを求めて、異議申立てを行ない、本件は、同年4月12日付けで三島市長より条例18条に基づき当審査会に諮問されるところとなった[当審査会諮問第4号]。
(2)  当審査会の審査においては、実施機関側が平成13年4月26日に理由説明書を提出し、これに対し申立人は同年5月18日に意見書を提出した。そして平成13年6月25日には、申立人(補佐人同席)による口頭意見陳述が行なわれ、同年9月3日には、実施機関に対する意見聴取が行なわれた。
 また、申立人より、同年7月23日に意見書(補充)が提出され、同年9月27日にビデオテ-プ(同年8月19日にTBS放映の「噂の東京マガジン 夏の大特集・あなたのウチも危ない・広がる土壌汚染」を録画したもの)が補充資料として提出された。

審査会の判断

申立人と実施機関との間における本件の主要争点に関し、当審査会は以下のとおり判断する。
(1) 公文書開示等決定期間延長通知書の発信日の誤記について
 申立人は、公文書開示等決定期間延長通知書(三ま環第88号)の発信日付に明白な誤記があり、有効な期間延長決定が存在しないまま、法定の期限を徒過してなされた公文書開示請求拒否決定通知書(三ま環第100号)は無効であると主張する。
 公文書開示等決定期間延長通知書(三ま環第88号)の発信日付に誤記があったことは実施機関も認めるところであり、実施機関は、申立人より異議申立てがなされた後の平成13年3月30日付け文書「三ま環第121号」により訂正の通知をしている。実施機関は、公文書開示等決定期間延長通知書の発信日を平成13年1月9日と記載すべきところを平成12年1月9日と誤記したのであるが、当該通知書本文には、条例13条1項による決定期限および延長後の決定期限につき、それぞれ平成13年1月11日、平成13年2月10日と正しく記載されている。このことからすると、期間延長通知書の発信日付が誤記であることは客観的に明白であり、誤記であることを申立人が容易に認識できるものであったことから、このような客観的に明白な誤記については、その誤りを正し、正しきに従って効力が生ずるものと解してよいと判断する。
(2) 本件公文書について
 本件開示請求の対象となる公文書の名称は、「北沢亜鉛工場跡地土壌汚染の修復工事に係る協定書(案)」である。実施機関は、公文書開示請求拒否決定通知書(平成13年2月7日付け三ま環第100号)において、本件開示請求にかかる公文書の名称を「三島市が□□□□(株)に提示している北沢旧亜鉛精練工場跡地修復工事に関する防災協定書の案」と記載しているが、三島市長より当審査会への審査諮問書(平成13年4月12日付け三環企第5号)において、不服申立てにかかる公文書の名称は「北沢亜鉛工場跡地土壌汚染の修復工事に係る協定書(案)」と記載されている。当審査会は、公文書開示請求拒否決定通知書における「公文書の名称」欄には、本件開示請求の対象となる公文書の正式名称を記載すべきであったと判断し、諮問審査書に記載の「北沢亜鉛工場跡地土壌汚染の修復工事に係る協定書(案)」(以下「本件協定書(案)」ともいう。)を本件開示請求にかかる公文書の名称として用いることにした。  当審査会の調査によれば、三島市長は、三島市土地利用事業に関する指導要綱7条に基づき、□□□□より申請のあった土地利用事業(北沢亜鉛工場跡地土壌汚染の修復事業)について、平成9年7月16日付け通知書(三都計第415号)をもって承認する旨を通知した。その承認に付した三島市長の意見のひとつが、工事着工前に関係機関と「協定」を締結することであり、その「協定の締結」は、三島市土地利用事業に関する指導要綱15条を根拠とするものであった。
 以上の経過を経て、本件協定書(案)は、平成9年8月初旬に実施機関内部で起案されたものであり、それ以来今日に至るまで、三島市と□□□□との間で協定締結の協議が行なわれてきたもののなお締結するに至っていないものである。実施機関の説明によれば、本件協定書(案)の内容について、□□□□から一部見直しを求められており、現時点では未確定の部分を含む交渉中の文書である。
 なお、三島市土地利用事業に関する指導要綱9条によれば、三島市長による土地利用事業の承認は、原則として、事業主がその土地利用事業に関する工事に着手しないまま2年を経過したときは、その効力を失うことになるが、「ただし、事業主の責めに帰することのできない特別の事由があると市長が認めるときは、この限りではない」と規定されており、三島市長の平成9年7月16日付け承認は、これまで2年ごとに期間延期の手続がとられてきた。
(3) 本件協定書(案)の条例8条7号該当性について
 条例8条7号は、「監査、検査、許可、認可、入札、取締り、争訟、交渉、契約、試験、調査、研究、人事管理その他実施機関の事務又は事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報と規定している。
 実施機関は、本件協定書(案)は条例8条7号に規定する不開示情報に該当するとして、次のような主張をしている。
 第1に、「本公文書は、現在、相手方である(株)□□□□との間で協議中であり、交渉継続中に開示することにより、事務の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがあること」、第2に、「本文書の内容について、(株)□□□□から一部見直しを求められており内容が確定されたものではないこと」、第3に、「条例第15条第1項に基づき、(株)□□□□から情報開示について意見聴取をしたところ、未締結であることを理由として、その全部を不開示とされたい旨意見が述べられていること」、第4に、本協定の締結は三島市土地利用事業に関する指導要綱に基づく行政指導として行なうものであって、行政指導の受け入れの可否は、両者の合意をもって可能となるものであり、「本文書を開示することにより、協定の相手方との信頼を損なうこととなり、今後の協定締結交渉に支障が生じる恐れがある」との主張である(理由説明書および意見聴取)。
 それに対し申立人は、第1に、修復工事に関する協定書の内容如何によっては、二次汚染の発生や再汚染が発生しかねないなど、「三島市と三島市民に重大な影響を及ぼすため」、協定の締結後に開示しても意義がないことを主張する(異議申立書および意見書)。第2に、□□□□は、当該土地が汚染地であることを承知で取得し、同地を宅地造成することを予定しているのであり、「この際、□□は協定書案を公開し、公害問題解決に積極的に取り組む姿勢を示して欲しいし、そのことが会社の利益になる」ことを主張する(意見書)。第3に、三島市としては、「将来土地取得者に対してもどのような工事がされたかを知らしめることは、行政として必要なことである。市民に協定書案を提示し、安全性を市民と共に確認することが行政の執るべき方法であり」、環境を市政の中心にする市長の執るべき政治姿勢である。「協定書案を開示したことによって、三島市と□□の信頼関係が損なわれることはありえない。締結前の開示は、三島市の積極的な環境行政を市民に示す良い機会であり有益である」ことを主張する(意見書)。第4に、「□□は修復工事費を可能な限り切り詰めたいと考え」、他方、「三島市の対応は、□□寄りの環境行政だと批判されても仕方が無い」ところがあり、市民の知らないところで防災協定が締結されると、その内容は「徐々に骨抜きになる危険性を帯びてくる」(意見書)おそれがあり、「市民と行政と企業が一体となってより良いものをつくるためには、交渉過程のものであっても公開すべきである」(意見陳述)と主張する。第5に、「協定書案の基礎になるアセスメントに多くの問題点や間違いを含んで」おり、「アセスメントの内容及び協定書案は科学や科学技術上の正当性が優先されるべきであり」、「その上に立っての信頼関係である」(意見書)と主張する。
 当審査会は、まず第1に、本件協定書(案)の記載内容は、条例8条7号に規定する「交渉」に該当する実施機関の事務または事業に関する情報であると判断する。
 第2に、条例8条7号に規定する不開示情報の該当性については、以下のような解釈基準をもって判断すべきものと解する。
 条例8条7号にいう「当該事務又は事業の性質上」とは、当該事務または事業の本質的な性格、具体的には、当該事務または事業の目的およびその目的達成のための手法等に照らして、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるかどうかを判断するとの趣旨である。次に、「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」とは、実施機関の長に広範な裁量権限を与えるものではなく、その要件該当性を客観的に判断する必要があるものであり、事務または事業の根拠となる規定またはその趣旨に照らし、公益的な開示の必要性等種々の利益を衡量した上での「適正な遂行」と言えるものであることが求められる。「支障」の程度は、名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、また、「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性があると認められるかどうかにより判断すべきものである。
 そこで、当審査会は、以上のような解釈基準をもって本件を検討することにする。
 本件協定書(案)にかかる「北沢亜鉛工場跡地土壌汚染の修復事業」は、法律に基づき実施されるものではなく、三島市土地利用事業に関する指導要綱7条に基づき、「法令に基づく許可、認可等の申請又は届出をする前に」、三島市長に土地利用事業承認申請書を提出して、その承認を得て行なわれるものである。また同指導要綱15条に基づく協定の締結も、三島市による行政指導の一環として行なわれるものである。すなわち、本件の土地利用事業の承認および協定の締結は現行法上、義務づけられたものではなく、三島市の行政指導として行なわれているものである。したがって、三島市長は□□□□に対して行政指導として協定の締結を求めるにおいては、「行政指導の内容が相手方の任意の協力によって実現されるものであることに留意しなければならない」(三島市行政手続条例30条1項)ことになり、また、協定締結は一方の当事者である□□□□との合意を前提とすることから、協定の締結を目的とする交渉過程においては、□□□□の意向を尊重せざるを得ないことになる。□□□□は、「公文書の開示等に係る意見書」(平成13年1月19日付け)において、協定の未締結を理由として、本件公文書の全部につき、「公開されると支障がある」と述べている。それゆえ、本件の場合、交渉過程において、交渉の相手方の意に反して本件協定書(案)を開示することにより、協定の締結に困難が生じることが客観的に予想されるものと、当審査会は判断する。
 本件においては、協定締結の交渉を円滑にすすめることおよび協定締結を実現することが、条例8条7号にいう「当該事務又は事業の適正な遂行」に該当することから、交渉の相手方の意に反して本件協定書(案)を開示することにより、協定の締結という「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」と、当審査会は判断する。
 ところで、申立人は、本件協定書(案)を開示すべき理由として、協定内容の科学技術上の合理性の確保や修復事業に伴う環境への悪影響の事前防止の必要性などを主張しているが、その意味するところは、「当該事務又は事業の適正な遂行」として、協定の内容そのものが「適正」であるべきことを主張する趣旨である。当審査会も、土壌汚染の修復工事においては、地域住民の生命・健康の安全確保のために、土地改変に伴う新たな環境リスクの発生の防止に万全を期すべきであり、土壌汚染修復工事実施計画の内容が科学的知見に基礎づけられたものであるべきと考えるが、前述したように本件協定の締結は法律上義務づけられたものではなく、三島市による行政指導として相手方との合意を得て行なわれるものであることから、その交渉過程における協定(案)の内容については両当事者の見識に委ねて、協定の締結を図ることが、「適正な遂行」として優先されるべきであると、当審査会は判断する。
(4) 本件協定書(案)の条例9条該当性について
 条例9条は、「実施機関は、開示請求に係る公文書に不開示情報が記録されている場合において、不開示情報として保護される利益に優越する公益上の理由があると認めるときは、第7条及び前条の規定にかかわらず、開示請求者に対し、当該公文書を開示することができる」と規定する。
 申立人は、「協定書案の基礎になるアセスメントに多くの問題点や間違いを含んだままでの防災協定締結には問題がある。アセスメントの内容及び協定書案は科学や科学技術上の正当性が優先されるべきである。その上に立っての信頼関係であると思う。修復工事や防災協定には以上のべた危険性があるために協定書案を公開したことによって、仮に、□□との信頼関係が崩れることになっても、将来発生するであろうことが予想される災害や再公害と三島市の責任を考慮した場合、公益上、協定書案を公開し市民の合意を得るようにすることが大切である」(意見書)と主張するが、その趣旨は、条例9条による「公益上の理由による裁量的開示」を主張しているものと解することができる。
 ところで、条例9条の規定は、条例8条に規定する不開示情報に該当する情報であっても、実施機関の高度の行政的な判断により、裁量的開示を行なうことができる旨を規定したものであり、不開示情報を開示するという処分の性質からして、「不開示情報として保護される利益に優越する公益上の理由」の認定について、実施機関の要件裁量を認めるものである。したがって、当審査会による裁量的開示の適否の判断は、実施機関の行なった認定過程に裁量の範囲を越える著しい逸脱があったか否かという観点から行なわれるべきものと、当審査会は解釈する。
 当審査会の調査によれば、三島市長の承認を受けた土地利用事業として行なわれる北沢亜鉛工場跡地土壌汚染の修復事業は、□□□□が策定した「北沢亜鉛工場跡地土壌汚染修復工事実施計画書」にそって実施されるものであり、地元である北沢町内会は、その修復工事実施計画に同意し、平成12年12月1日には、「北沢亜鉛工場跡地汚染土壌の土壌改良工事の早期実現の為の要望」書を三島市長に提出している。
 本件の場合、「不開示情報として保護される利益」とは本件協定を締結することによる利益であり、他方、申立人の主張する「公益上の理由」とは、協定内容の科学技術上の合理性の確保、修復事業に伴う環境悪化の事前防止および市民合意の必要性であるが、本件修復工事にかかる地元町内会の要望等の事実を考慮するならば、本件協定の締結を優先的利益と認定した実施機関の判断過程に裁量の範囲を逸脱する明らかな誤りがあったとはいえないと、当審査会は判断する。
 なお、当審査会としては、土壌汚染にかかる情報は、地域住民の生命・健康面での安全確保および土地取引や土地改変の際における新たな環境リスクの発生防止の観点から重要な情報であり、市民に無用な不安や不信感を与えないように市民への適切なリスク情報の提供に努めることが適当であり、三島市が地元の北沢町内会に対して、本件協定(案)の内容について相当の情報提供をしていることに鑑みるならば、三島市民である申立人に対しても、条例24条の趣旨に則った適切な情報の提供に努めることが妥当であるとの意見を申し添えることとする。
(5) 以上により、当審査会は、本件処分につき、「審査会の結論」のように判断する。

審査会の処理経過

平成13年 4 月12日 審査諮問書の受理
同年 4 月26日 実施機関からの理由説明書の受理
同年 5 月18日 異議申立人からの意見書の受理
同年 5 月28日 諮問の審査(平成13年度第2回審査会)
同年 6 月25日 異議申立人による口頭意見陳述(平成13年度第3回審査会)
同年 7 月23日 異議申立人からの意見書(補充)の受理
同年 9 月 3 日 実施機関からの意見聴取(平成13年度第4回審査会)
同年 9 月27日 異議申立人からの補充資料の受理
同年10月12日 諮問の審査(平成13年度第5回審査会)
  (平成13年10月31日付けで、兼子 仁会長が退任)
  (同年11月1日付けで、立石 健二委員が新たに就任)
同年11月14日 諮問の審査(平成13年度第6回審査会)
同年12月18日 諮問の審査(平成13年度第7回審査会)
平成14年 1 月22日 諮問の審査(平成13年度第8回審査会)
同年 2 月19日 諮問の審査(平成13年度第9回審査会)
同年 4 月 3 日 諮問の審査(平成14年度第1回審査会)
同年 5 月28日 諮問の審査(平成14年度第2回審査会)
同年 7 月 3 日 諮問の審査および答申書の確定(平成14年度第3回審査会)

三島市情報公開審査会

  • 三橋 良士明(会長)
  • 立石 健二(職務代理者)
  • 大村 知子(委員)