(第64号) タテマエ(上棟式)の祭具 (平成4年10月1日号)

タテマエ(上棟式)の祭具
 衣・食・住は人間の生活を支える三要素と言われます。三要素のどれ一つが欠けても、日常生活はたちまち行き詰まってしまいます。

私たちの先祖は、衣・食・住が安定的に満たされた日常生活を得るためにさまざまな知恵をしぼり、努力をはらってきました。だから、それを手に入れた時の感動と、そのことを祝う気持ちには特別なものがありました。

衣料の原料となる繭の収穫の祝いごとや食糧である米の祝いごと、あるいは住まいを手に入れたときの祝いごとなどが、伝統的な村や家族の祭りとして行われてきたことは、生活の安定を得たことに対する人々の素直な喜びでした。

 静岡県東部地域では、最近まで、家屋を新築した時に行うタテマエ(上棟式)が盛大に行われてきました。

 タテマエの日取りは、大工の棟梁が暦を見て、大安などの良い日を選びます。屋根棟に立てるノサも、棟梁がこしらえ、準備します。

 当日、屋根棟の中央には鳳凰【ほうおう】を描いたノサ。四方には虎、龍、鶴、亀のノサが並び、ノサの両側には、丑寅(表鬼門)の方向の大地をねらうカブラ矢と、未申(裏鬼門)の方向の天をねらうカリマタ矢が並び立ちます。

 タテマエの式はノサの並んだ屋根の上で行われ、建築を請負った大工の棟梁をはじめ、施主、建築に係わった職人さんなどが勢揃い。

 屋根の上での式が一通りすんだところで、投げ餅の開始。施主の投げる四方餅を合図に、景気良く一斉に餅が投げられ、集まった近所の人々の餅拾い合戦がくりひろげられます。

 家屋の新築は、その家にとって、住(住まい)を得るという一世一代の大仕事でした。それだけに、タテマエの祝いごとはできるだけ盛大に行い、また喜び合い、その家の繁栄を祈願したものです。
(広報みしま 平成4年9月1日号掲載記事)