孝行犬の墓

孝行犬
 昔、円明寺の本堂の床下に、お母さん犬と5匹の子犬がなかよく住んでいました。
 お寺のお上人は、犬たちをたいそうかわいがり、それぞれに名前をつけてあげました。お母さん犬はタマ、子犬たちは、トク、ツル、マツ、サト、フジという名前でした。6匹は番犬として、お寺の門を忠実に守り、お上人を喜ばせました。
 ところが、ある寒い冬の日、子犬のフジが死んでしまい、それがもとで、お母さん犬までが病気になってしまったのです。
 子犬たちは、お母さんの病気を治そうといっしょうけんめいでした。 ツルとサトは、お母さんのそばを片時も離れず看病をしていました。
 一方、トクとマツは、雪の町へ出かけて行き、ある家の窓の下でしきりにほえました。それは何かをうったえるような悲しんでいるような声でしたので、その家の人が食べ物を上げると、食べようともしないで口にくわえて走り去ります。2匹は、お母さんに食べさせるエサをもらいに行ったのです。しかし、子犬たちの看病もむなしく、お母さん犬は半年後の暑い夏の日にとうとう死んでしまいました。
 このようすをやさしく見守っていたお上人は、子犬たちの孝行ぶりにひどく感心しました。その後、残った4匹もお母さんの後を追うように相次いで死んでしまうと、6匹のためにお墓をたてました。墓石には犬の名前をきざみ、ていねいにお経をあげたということです。
 今、円明寺にある「孝行犬の墓」はこのときのものです。毎年、4月18日には供養祭を開き、犬たちのめい福を祈っています。