(第196号) 描かれたチョウやトンボ (平成16年9月1日号)

和漢三才図会
 郷土資料館では、国内で見ることの出来る美しいトンボの数々の生態写真を、企画展示会場で紹介しています。(撮影、加須屋真氏) 写真技術やビデオが発達した現在は、多くの人々が手軽にチョウやトンボを撮影し、記録に残すことができます。
 しかしこうした機器がなかった江戸時代の人々は、どのようにチョウやトンボを記録していたのでしょうか。この頃の画家たちによる、美しいチョウを観察したスケッチが残されています。特に日本画家、円山応挙は「写生の祖」といわれ、「禽虫之図(きんちゅう)」などに数多くの昆虫類の写生を残し、チョウやトンボの精密な画面を描いています。
 また、当時の科学者達が、植物や虫の生態を観察し、詳しい解説と共に図を書き残しています。伊勢長島藩の増山雪斎の『虫豸帖(ちゅうちじょう)』、幕府の御殿医で本草学の専門家だった栗本丹州による『千虫譜(せんちゅうふ)』は虫類の図譜です。
 これらの科学者達は中国の科学・本草学の影響を受けており、手本とされたのは明国の李時珍の『本草綱目(ほんぞうこうもく)』で、中国の代表的な本草書です。
 一方、江戸時代中期には、わが国の本格的な百科事典が編纂されるようになり、この中に挿絵としてそれぞれの項目が図入りで紹介されています。
 その代表が『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』です。大坂の医師寺島良安が三十年かけて編纂したもので、全81冊となる膨大な図書です。
 天・地・人に大きく分類された中にそれぞれの項目を収め、天文気象、暦から官位、医学、外国事情、芸能、楽器、兵器、道具、車駕、農具、甲貝、魚類、虫、地理、地誌など広範囲の内容を、図入り、漢文で解説しています。  この中でチョウは鳳蝶(あげはのちょう)として取り上げられ、和名は保保天布(ほほてふ)、阿介波乃蝶(あげはのちょう)と紹介されています。(写真)
トンボ・蜻蛉(やんま・とんぼう)は和名が加介呂布(かげろふ)、当時からおにやんま、あかとんぼ、くろやんま、きやんま、などと分類されていました。
これら江戸時代の虫の世界は、企画展「チョウとトンボ~のぞいて見よう!虫の世界」(11月7日まで)で紹介しています。
(広報みしま 平成16年9月1日号掲載記事)