(第348号)山間の村に伝わるお祭り 龍爪講 (平成29年5月1日号)

 今回は箱根西麓の集落で続く村の祭りを紹介します。

 三月中旬、市内山間部に位置する伊豆佐野・小沢・元山中の各集落では、「リュウソウサン」と呼ばれるお祭りが行われます。これは龍爪神社の愛称で、古来、狩猟などで鉄砲を扱う人々の信仰を集めていました。鉄砲による災難を払うと信じられていたことから、「弾除け」の御利益があるとされ、特に戦時中はあつく信仰されました。ここでは元山中のリュウソウサン(龍爪講)について紹介します。

 元山中のリュウソウサンは、その年の当番が集落から少し離れた場所にある龍爪神社にお参りすることから始まります。当番は集落にある十世帯が交代で務めます。以前はほかの集落も同じ日に祭りを行っていましたが、今は元山中集落のみが伝統の日付を守っています。

 当番が山神社内の龍爪神社へお神酒を供えてお参りしたのち、公民館へ向かいます。公民館にはオフルマイ(祭り後の親睦会)が用意されており、主に各家の世帯主が夕方から集まってお神酒を頂き、宴会を開始します。

 このとき必ず膳に上るのが赤飯にぎりとサバの煮つけです。サバは魚がぜいたくだった頃の名残かもしれません。現在は公民館で行いますが、昭和二十年代ごろまでは山神社の社の前で、各家庭一品ずつ持ち寄ってのオフルマイでした。折った小枝を箸代わりに、葉っぱにのせた赤飯にぎりを頂く、という素朴な宴会だったそうです。

 宴もたけなわとなった頃、お札すりが始まります。版木は嘉永五年と書かれた箱に入っており、幕末から使い続けているものと思われます。弾除けの御利益があると言われるこのお札を貰うため、戦時中は遠方から来る人も多かったそうですが、現在は集落内の家庭分のみ、すっています。多くの家庭では台所に貼っておくそうです。

 元山中の人々は子どものころからの知り合いばかりで、わいわいと賑やかです。「リュウソウサン」が途切れることなく続けられている理由は、こうして楽しみの一つにしているからなのかもしれません。

オフルマイの始まり
龍爪講 オフルマイ


お札すり
龍爪講 お札すり

完成したお札 龍爪講 完成したお札


【広報みしま 平成29年5月1日号掲載記事】