（第438号）大地に刻まれた戦争の痕跡（令和7年9月1日号）

　今回は発掘調査で出土した、戦争中の防空壕と通信ケーブルについて紹介します。箱根山の中腹に位置する接待茶屋遺跡の防空壕（ぼうくうごう）は、斜面を東西2方向から横穴状に掘り込んで奥でつなげたもので、平面形は不整形な逆Ｖ字型をしていました。東側は最大部で幅70センチ、高さ大地に刻まれた戦争の痕跡138センチの通路を、真っ直ぐに約5メートル入ったところで直角に折れて小部屋を作っています（図・黄色部分）。西側は最大幅約2メートル、奥行き約5メートル60センチで、途中に段差を設けて扉を付けていたようです。平成6年（1994）の聞き取り調査では、「第二次世界大戦末期に、防空壕として最初に東側部分を掘り、その後西側部分を付け足した。終戦後は野菜やヤギの乳の保管場所として利用した。」というお話を伺うことができました

防空壕の平面図

　また箱根旧街道の発掘調査では、石畳の下の溝状の掘り込みの中から通信ケーブルが出土することがありました。聞き取り調査をしたところ、「子どものころに、兵隊さんが石畳の下にケーブルを埋めるのを見に行った」、「昭和15年（1940）ごろ、戦争中の架線式通信網の安全を図るために、旧街道の下にケーブルを埋設した」、「昭和40年ごろ、ケーブルの一部を回収して金属を売り払った人がいた」という話を聞くことができました。

　こうした証言を裏付けるかのように、溝状の掘り込みから何も出土しない箇所がある一方で、陶器製トラフ（樋状<といじょう>の保護管）の中から2本のケーブルが出土することもありました。

通信ケーブ　　ルと陶器製トラフ

　　 　このトラフは昭和16年に実用新案登録がなされ、数年後に需要の全盛を迎えたものなので、この時期にケーブルが埋設されたと考えられます。

　今回取り上げた防空壕と埋設式の通信ケーブルは、戦争中に活躍する機会もなく終戦を迎えたようです。戦争に対する備えなどしなくてもよい時代が続くことを願ってやみません。

【広報みしま令和7年9月1日号掲載】